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タイプとは?

[ 153] タイプC症候群からの変身の価値
[引用サイト]  http://www.geocities.jp/yg_poesie/TypeC_Synd.htm

★ 世の中の人がすべて、タイプAかタイプBかタイプCかに分類されるわけではありません。これらは行動パターンを示したものに過ぎません。それぞれのタイプの行動例を示す人はたくさんいますが、例えばすべての点でタイプCだという人はそれほど多いわけではありません。
身に降りかかるストレスや心の痛みへの対処行動のスタイルについていえば、たいていの人はAからCまでの間のどこかに位置します。これをスケール(物差し)で示せば、
★ 一方の端に、競争的で、心配性で、過度に攻撃的なタイプAがあり、もう一方の端に、受動的で決して腹を立てない典型的なタイプCが位置します。感情を適切に表現できるタイプBは、真ん中の健康的な部分を占めることになります。
それぞれのタイプの間には、スペースがあり、各人の独特な対処行動スタイルに応じた位置付けができます。例えば、タイプC行動を示しながらも感情に柔軟性のある人は、このスケールのBとCの間に位置します。このような人は、自己を意識すればするほどもっと自己表現ができるようになり、真ん中のタイプBにより近くなることでしょう。
同様に、神経質なタイプAであっても、リラックスできたり、猛烈な競争心を時には忘れる
このスケールは、タイプAの対処行動と、タイプCの対処行動が対極にあることを示すとともに、タイプBを真ん中に置くことによって、心身の健康がバランスの問題である
★ 怒る能力、野心的な目的のための努力、そして自己中心性は、それ自体、病的という訳ではありません。タイプAの人たちのように、これがゆがめられたり、行き過ぎたりすると病的となるのです。タイプAの研究者によると、極端なタイプA行動は、心臓病の発生率を高めるようです。タイプAの敵対性が心臓血管系に悪い影響を与えるためらしい
また、愛想の良い振る舞い、怒りのコントロール、そしてトラウマに直面しても恐れない態度を一時的に見せることは、対処行動として効果的な場合があります。しかし、タイプCの人たちのようにこれらが行き過ぎると、心身の健康を損なう
ことになってしまうのです。そして極端なタイプC行動は文字通り(タイプCのCはCancer【ガン】の頭文字に由来)、ガン(癌)の発病率を高めます。タイプCの無表現(感情の抑圧と抑制)が、ガンや感染症などから人を守る免疫系を弱めるためとされています。これを裏付ける研究については後述します。
これらに対して、感情を適切に表現できる、バランスのとれたタイプBは、心臓病にもガンにもかかるリスクが低い
このスケールの上で自分の位置を見つけ、バランスのとれた感情表現やストレス対処行動をして、真ん中に近付くために必要なステップを知る
ことができます。いわゆる《柔軟性》をもった人ほど変化して、このスケールの中を動きやすい。しかしまた一方で、どんなに極端なタイプCでも、真ん中のタイプBに近付いて行く
問題となるのは、最終的にどこまで行ったかではなく、どれほど多く変化したかです。第二部で後述してご紹介するタイプC変容プログラムは、本質的には《柔軟性》へのガイドであり、自分の感情に接し、防衛機制を緩和し、人間関係を変える手助けとなる、個別的なアプローチだといえます。
以下の項目(全20)に自分が当てはまるかどうか考えてみましょう。これは、あなたのタイプC行動を確認し、注意が必要な行動パターンを洗い出すためのチェックリストといっていいでしょう。以下の項目のうち、あなた自身に当てはまると感じられたものがいくつあるでしょうか?
答える時に、あまり深く考えず、雑念を捨てて、できるだけ正直に回答する事がポイントです。
2. 個人的なつきあいや職場での人間関係の中で、自分の方が劣っていると感じることがよくある。
3. 昇給を求めたり、人に助力を頼んだりしなくてはならないとき、不安な気持ちになる。
7. 世話をしている人に頼みごとをされたら、あまりやりたくないことでもやってしまう。
11. 親しい間柄の多くの人たちに、感情的にか身体的にか、虐待されたと感じたことがある。
20. いつも前向きなのが一番だ。だから、ものごとが上手くいかなくても、落ち込んだり、悲しがったり、腹を立てたりはしない。
ただし、全20項目のうち、半数以上(10項目以上)で当てはまっていると感じたなら、あなたは、タイプCであるといえます。さらに、正直に言って、15以上「Yes」なら、その人は極端なタイプCと断定されます。
ガン患者さんを含め、多くの人たちは、自分のタイプC行動を一度しっかりと認識すると、意外にも解放された気持ちになるものといいます。依存症から回復するときや、否認していたものを受容するとき、あるいは受動的から行動的(能動的)に変わるときなど、どんな行動の変容においても、まずそれまでの行動パターンを認めることが出発点となります。
「そう、私は自分の感情を受入れたり、表現したりするのが苦手で、人生の中に自分で責任をもって関わって来なかった面がたくさんある。それに気付いた今は、変わりはじめられる。これで、自分の成長の可能性を閉じていた役割を捨てられるんだ!」
いったん自分のタイプCパターンをつきとめ、認めることができたなら、第二部でご紹介する変容のプロセスを開始することができるはずです。
たとえ極端なタイプCであるからといって、あなたがガンになるとか、ガンで死ぬということにはなりません。ただ、あなたの人生の処し方のせいで、自然に備わった防御力が次第に損なわれていくかもしれないということです。だから、病気になる運命にある、というわけでもありませんが、喫煙や貧しい食生活や過度の飲酒など、健康を害するほかの要因と同じように注意を払い、変えて行くことを検討すべきものということです。
日常生活では問題ないかもしれませんが、もし何か深刻な、ストレスの多い状況になったとき、あなたの体の状態ではその難問に対処できないかもしれません。
タイプCの人が道徳的に良いとか悪いとかいうことは全くありません。タイプAやタイプB、あるいはどのような習慣的行動パターンについてもそれは同じです。罪悪感を抱くべき問題ではありません。私たちは誰でも、苦痛や不安に対処するために編み出した習慣を持っています。タイプCの人にとって、それは人に優しく、従順になることで、ネガティブな感情を決して表に出さないという対処法であるということです。
タイプC行動の短所を理解し、自分の心理的、身体的健康にこれまで以上に責任を持つのはとても健康的なことです。だからといって、あなたを脅して無理やり変容させようというつもりは毛頭ありません。このページで語られることは、新しい世界を探検してみてはいかがでしょうか?……という勧めに過ぎません。
今、健康と病気についての考え方には大変革が起きています。最大のポイントは、人が健康であるか病気であるかについて、心−身関係が重大な影響を与えうると認識されるようになったことです。
という新しい学問分野によって、脳の構造、化学的メッセンジャー、そして免疫細胞などが関わる心と体の入り組んだ関係が図表化されようとしています。この新しい分野の研究者たちは、
人がどう考え、どのように感じるかによって、免疫機構、すなわち病気に対する体の防御機構のネットワークの強さが変わる
ことを明らかにしつつあるのです。そして、この心−身関係がどれほど深く関係するのか、ことに、人間の感情や行動は、ガンのような病気の発生やガンからの回復にまで影響を及ぼすものなのだろうか?
過去20年以上にわたるこのテーマの研究の成果として、ある特定の行動パターン(タイプC行動)が、実際にガンの発生や回復に関わっていると確信されるようになってきました。
病気になりやすい行動があるとわかったことで、ガンを初めとする病気との闘いに新たな展望が開けました。禁煙したり、食生活を変えたり、身の回りの発ガン物質を避けたりすればよいことは前から知られていました。これを実践すればガンになるリスクを減らせるはず。ところが、正真正銘、健康的な暮らしをしている人、煙草は吸わず、酒も飲まず、ジャンクフードも食べたことがない人でさえ、実際にはガンに侵される人は多いのです。こうなればもう、お手上げだ、とも思いたくなります。しかし、心−身とガンに関連があるとなれば、私たちの運命をコントロールするもう一つの重要なレバーがあるということになります。
タイプCの行動パターンは、人が手を加えることのできる危険因子(リスク・ファクター)です。この行動パターンを変えることで、ガンの発病や進行のリスクを減らすことのできた実例があり、また、ガン患者の生活の幸福と身体の回復力を促すタイプC変容技法が確立されていますので、第二部で紹介させていただきます。
次にあげるのは、150人以上のメラノーマ(進行の早い皮膚ガン)患者の面接をもとにまとめた結果です。
これらの患者のおよそ4分の3にタイプCの行動パターンが見られました。つまり、彼らは以下の行動のほとんど、あるいは全部を示したのです。
●2. ほかのネガティブな感情、すなわち不安、恐れ、悲しみも経験したり表出したりしない。
●3. 仕事や人付き合い、家族関係において、忍耐強く、控えめで、協力的で譲歩を厭わない。権威に対して従順である。。
●4. 他人の要求を満たそうと気を遣いすぎ、自分の要求は十分に満たそうとしない。
彼らは、よく似たレベルのストレスにさらされていました。そして環境への対処の仕方にもまったく同じような特徴を示したのです。感情を抑え、愛想の良い振る舞いをし、けっして不平を言わず、自分に身近な人の要求に献身的に応えようとするのです。
もちろん、善い行為というもの自体は病的ではありません。仕事においても人間関係においても、好ましい振る舞いは、環境によく順応しているしるしと見ることができます。人のために働き、喜ばせ、妥協し、不和を仲裁する能力は、強い社会的絆を築いてそれを維持するのに重要といえます。しかし、一方で、例えどんな状況にあっても……どんなにストレスが多くても、侮辱されても、また危険な状況であっても……強迫的に頑固に「善さ」を誇示する人は、自分の感情の中にかなり大きなギャップを抱え込むことになります。このような「善さ」を自分自身にも他人にも見出すことがあるでしょう……これは、無理のある不自然なものです。
侮辱されても抗議できない「いい奴」は、侮辱され続けることになりやすいし、昇給や休暇を要求できない人は、出世することもないでしょうし、認められていいはずの楽しみを満喫することもないでしょう。楽観的にしか世の中を見ることのできない「いい奴」は、彼の人生に何度も姿を変えて現れるペテン師の悪意に気付くこともないでしょう。あらゆる人を喜ばせようとする人は、めったに自分自身を喜ばせないものです。
彼らは、ガンの診断を受けるずっと前から善良な行為を続けてきた根っからの「善い」人たちでした。こうした人たちは、明けても暮れても感じていることに逆らう生き方をしたために、緊張のあまり、どうやら体の防御機構が崩壊したようでした。
ストレス自体が病気の決定的な要因となるというよりは、重要なことは、人がそれに対処するメカニズムが強いか弱いかです。私たちは誰でもストレスがあり、ストレスがかかる出来事とガンなどの病気とを結びつけて考えようとする科学的な試みは、あいまいな結果しか出せていないのが現状です。愛する者の死、失業、あるいは病気を、どれほど健康的に乗り切れるかを決定するのは、私たちの心理的資質といえるでしょう。
患者によっては、タイプC対処スタイルがある程度までうまく機能することでしょう。つまり、人生のさまざまな段階でストレスを減らす働きをする。しかし、多くの患者には、タイプCスタイルが心理的、身体的に深刻な影響をもたらしたと、判断されます。
タイプCの対処の仕方は、基礎の弱い建物に似ています。その基礎は、ある年数もちこたえてくれますが、いつか崩れて根本的な脆弱さを露呈します。自分の要求を主張したり、感情を適切に表出したりしない人は、何十年もきちんと生活し続けたとしても、次第に心や体に疲労があらわれ、健康が損なわれて、日々の暮らしもたちゆかなくなってしまうのです。
過去の研究者たちも、ガン患者における心理的状態や特性を明らかにしてきましたが、上記のメラノーマ患者の面接研究から浮かび上がったタイプCパターンの特性と奇妙なほどの類似を示しました。デイヴィッド・キッセン博士は、感情の表現の欠如とガンとの間に、真に科学的なつながりがあると最初に唱えた医者です。1950年代、スコットランドの鉱山労働者1000人に対する綿密な診療で、肺ガン患者とほかの人との比較を行い、肺ガン患者は「感情を吐き出すのが下手」であり、また、喫煙者はガンになる可能性が高いが、感情を普通に表現できる喫煙者は、表現が「下手」な喫煙者よりは発病率が低いという結果を発表しました。
キッセンに続いて次々とガン患者に診られる心理的要因を研究する医学者が増え、タイプCの仮説が確認され始めています。心−体−ガンのつながりが複雑ではありますがはっきりと描かれてきたのです。
多くの患者と接し、分析するうちに、タイプCはパーソナリティーの一類型ではないことがわかってきました。つまり、タイプCとは、その人がどんな人間かを示すものではなく、ストレスや心の痛みに対してどう対処するかという行動のパターンなのだと。そして、どうやら、この行動パターンは外界への順応の仕方として幼い頃に条件
「パーソナリティー」の定義は、学者によって違いがありますが、一般的には、変えることのできない個性を意味します。しかし、タイプCは後述するように「変えられる」ものですから、ストレスへの対処スタイルは変えられますし、「パーソナリティー」を急に改造するということではなく、行動パターンを変化させると言うことです。
心理療法(サイコセラピー)により行動を変容させた人もいれば、心理療法を必要としなかった人もいます。いずれの場合も、彼らは、以前より、豊かに自分を表現し、自己主張をし、自分を労わるようになっています。心の要求や感情についての意識を深め、他人との偽りのない関係を広げることによって、自己との関係や外界との関係に根本的な変化が生じるのです。タイプCの変容プロセスについては、第二部で詳述しますが、患者の行動変容能力を確認する手がかりとなる要素の一つが「柔軟性」です。
タイプCパターンは決して均一ではありません。タイプCという点では共通していても、ガン患者一人ひとりの関心や習慣、家族関係、ライフスタイル、価値観などは、みなそれぞれです。そして、タイプC行動の強さや、タイプCのどの要素がとくに強いかといったことも、患者により大きく異なるのも当然です。
医者が血液を分析して病気の可能性を探るように、患者ごとのタイプC行動のこれらの微妙な違いを分析することで、すなわち、タイプCの強弱の程度が、その人のガンの進行における行動パターンの役割を解く重要な情報を担っていることに、気が付きます。
自分の恐れ、怒り、悲しみを認めず、自分の経験を他人に語ることもしない、かなり極端なタイプCの患者の場合は、ガンの発病だけでなく、急激な進行にも影響するのでしょうか、面接の後数ヶ月という短い余命でした。しかし、このことが逆に希望の光をもたらします。というのも、タイプC患者のすべてがそれほど極端な例ばかりではないからです。タイプCのあまり強くない人は、「柔軟性」という性質をもっています。柔軟なタイプCは、タイプCとして受動的で怒りを抑える人ではありますが、ときには、立ち上がって、自分自身を擁護したり、不快感を表現したりすることがあるわけです。
「柔軟性」という要因は、人がガンをうまく克服できるかどうかに大きく関わっているのです。「柔軟性」は、タイプCの人たちが、パーソナリティーを変えなくても変容できるという希望のしるし。彼らは柔軟になるというまさにそのことによって、少しずつ変わっていきます。変容はたやすいものではないかもしれませんが、心理療法の本も読まず、セラピストにもかからずに変わっていく患者もいます。こうした患者たちに有利だった条件は一つだけ……わずかに感情を表すはけ口をもっていたということでした。ガンに襲われたとき、そのはけ口がある程度広がり、それが自分の要求を満たし、絶望の淵から救い出してくれたのです。
タイプC行動がガンの唯一の原因ではなく、ガンによる死の唯一の理由でもないことは明らかです。タイプC行動と何の関係もないガン患者もいれば、多少関係がある患者
もいて、またガンに関してタイプC行動が重要な働きをしている患者もいます。精神状態とガンの間に見出されたのは、因果関係ではなく、強い相関関係だったのです。
トランスパーソナル心理学のリーダー的存在、ケン・ウィルバーが、最近のインタヴューで、ガンにおける心の役割を明らかにしています。
「ガン患者の生存率は遺伝的体質や食生活を含む多くの変数によって決まります。アスベストも脂肪も電磁波も、それぞれ一つの変数である。もし、患者の回復に影響するすべての要因をきちんと分けられるとしたら、心理的な対処法の効力は10パーセントほどに見積もれるだろう。10パーセントとはいえ、助かる確率が五分五分だとすると、ストレスへの対処の仕方は決定的な要因となりうる。互角の選挙では、10パーセントですべてが変わるのですから。」
1985年、モーゲンズ・R・ジェンセン博士は、52人の乳ガン患者を追跡調査し、ガンの転移に影響を及ぼす要因を探し出そうと試みました。
博士は、2年後、ガンが転移した女性に心理学的特徴がいくつかあることを明らかにしました。その特徴とは、
でした。こうした心理学的要因は、医者が患者の予後を予想する際に頼りとする医学的要因以上に、病気の進行に重要な役割を果たしていました。ジェンセン博士の研究は、タイプCの考え方を支持するものです。タイプC行動は病気の進行と結びついているものであるから、これを裏返せば、ガン患者の前途を明るくすることもできるわけです。タイプC行動を変えるということは、人によっては50パーセントの要因にあたるかもしれないし、2パーセントに過ぎないかもしれません。それでも「接戦の選挙」の状況にある患者達にとって、浮動票は大歓迎でしょう。
しかし、私たちは誰も全能ではないことを肝に銘じておかなくてはなりません。ガンと闘うとき、自分の力だけでなく、自分の限界も認めなくてはならないのです。望んだだけでガンを消すことはできません。しかし、心を使ってガンを動かすことはある程度までできるのです。ガンを克服できなくても、心理的コントロールの限界を理解する利点は多いと思います。
タイプC行動を変えることは、自己再生、感情の表現、そして自己主張を意味します。そのためには、自分自身の要求を満たすことと、他人に助けを求める術(すべ)を習得することが必要になります。寿命の問題を抜きにしても、こうした変化はそれ自体に価値ある心理的啓蒙です。今これを読んでいる中で実際にガンにかかっている人は、幻影を抱くのではなく、望みを持って変容の道を歩む限り、病気が仮に治らなかったとしても、けっして後悔することはないはずです。
西欧の医学で長い間、人間について理解してきたイメージは、脳−中枢神経系を中心とする【心】の部分と、内分泌系や心臓血管系、消化器系、そして免疫系などからなる【体】の部分が、それぞれ独立に存在するというものでした。
近い将来、こうした発見により、医学の様相はこれまでと大きく変わっていくことになるでしょう。心身相互の影響を充分に理解し、それを役立たせようとするアプローチが生まれるものと思われるからです。
【心】という不確かなものを定義する試み……何世紀にもわたって、哲学者、心理学者、物理学者、芸術家、そして科学者たちが努力を重ねてきました。科学者たちのモデルでいえば、心の活動は中枢神経系に基付き、その指令は脳から出る、というものです。
しかし、心の活動だけで【心】全体を定義することはできないと思います。【心】は、脳構造や脳細胞、神経伝達物質、そしてニューロン以上のものでしょう。心の中心は体の中にはないと言う人もいれば、心とはもっと大きな宇宙的意識の一部であると見る人もいます。それでも、私は、心と体のつながりを解明するために科学的なモデルを信頼してきましたので、心とは中枢神経系のプロセスであるという考え方に立っています。少なくとも、意識の身体的位置は脳であるに違いありません。
心・脳が、体のほかのシステムすべてを調節することは、すでにはっきりしています。最も重要なのが、心臓血管系と内分泌系、そして免疫系です。その逆も然りで、体の各システムは、心・脳に通じています。私たちは、心と体は別のシステムで動いていると考えがちですが、これらのシステムはさまざまな曲がりくねった通路でつながっていて、ある種の伝達物質が、情報や指示を伝えながら自由に移動していると考えられます。
この伝達物質には、多くの名前がついていますが、最も多く使われるのは、神経(ニューロ)ペプチドという言葉です。神経科学者であり、この分野で著名な専門家のキャンディス・パート博士(C.
『私にはもう、脳と体を明確に区別することはできない……実際、神経ペプチドについて知れば知るほど、心と体を従来どおりの概念で捉えることが難しくなってくる。むしろ、心と体を統合された一つの【心−身】(Body-Mind)という実体として考えるほうが理にかなう』。
この分野の心身医学者たちは、脳と免疫系の間に相互的な情報伝達が存在していることを明らかにしています。このつながりこそ、タイプC行動とガンとをつなぐメカニズムが存在するという理論の基礎をなしています。長期にわたって感情を抑制し続けると、脳から、抗ガン防御力を抑える生化学的信号が送られるのだと考えられています。
ここで、先に進む前に、基礎的な知識として、心身医学の最近の進歩について詳しく述べる必要があるようです。これらを土台として、タイプC行動とガンの成長との関係に焦点をあてることができるからです。
ロチェスター大学の心理学者ロバート・エイダー博士は、1979年にこう述べています。『心と病気の関係を見る見方に大きな変化があった。いろいろな意味で、これは革命と呼ぶにふさわしい』と。
一つの分野の専門科学者が、垣根を乗り越えてほかの分野に踏み込んでいったときに始まったのでした。精神科医と免疫学者の共同研究など、それまで聞いたことも無かったような例が数多く始まったのです。彼らこそが、その後のハイテク研究による脳と内分泌系と免疫系との間の密接な関係の発見に不可欠だった着想と技術の飛躍を成し遂げたパイオニアなのです。その後、心身のつながりを示す生物学的証拠は増え続けました。精神科医や免疫学者だけでなく、神経科学者や内分泌学者、心臓学者、健康療法家、行動科学者も研究を行い、情報を収集し、さらに集まってデータを共有していったのでした。
その結果、まったく新しい研究分野が現れました。ジョージ・F・ソロモン博士によって命名されたその名前は、【精神免疫学】(サイコ-イミュノロジー)。その後、ロバート・エイダー博士が、現在心身医学でよく使われている【精神神経免疫学】(サイコ-ニューロ-イミュノロジー:PNI)という言い方を始めたのでした。
1970年代はじめ、ロバート・エイダー博士が、ロチェスター大学で行った一連の研究で、心身医学は学界の表舞台に立つことになりました。彼は、免疫学者のニコラス・コーエン博士と力を合わせ、パブロフの犬と同じように、ラットを訓練して免疫機能を変えられることを発見しました。サッカリンで甘くした水を飲ませると同時に免疫系を抑制する薬品を投与し続けると、ラットは甘い水と免疫抑制を結びつけるようになり、その後、薬品を投与するのを止め、甘い水だけを与えても、ラットの免疫機能は前と同じように急低下しました。ラットは古典的な条件付けの手法によって、免疫反応を変えることを効果的に学んだのでした。
エイダー博士はまた、このテクニックを狼瘡(ろうそう:膠原病の一つ)という、防御するはずの細胞が狂って自分自身の組織を攻撃する自己免疫病にかかったラットにも用いました。彼は、不適当な免疫反応を抑制するようにラットを訓練したところ、驚くべき結果を得られたのです。ラットの症状はおさまり、訓練されていないラットより大いに長生きさせることに成功したのでした。エイダー博士は、脳が免疫に関わっていると確信します。そうでなければ、ラットが免疫系の抑制を身に付けられるはずがないの
エイダー博士は、脳はどのようにして、免疫系に命令を下すのだろうか? と問いました。脳と免疫系の間にはどんな情報ルートがあるのだろうか? と。
ある研究グループは、「免疫系の脳下垂体」とも呼ばれる胸腺に、脳から下りてくる主要神経の一つである迷走神経からの繊維がたくさん集まっていることを明らかにしました。胸骨の裏側に位置するクルミ大の胸腺は、免疫系で重要な任務を担うT細胞の訓練センターのようなものとされます。
また、神経組織のネットワークは、脾臓、リンパ節、骨髄といった、免疫系の主要な臓器にまで入り込んでいることもわかっています。こうした研究は、
1960年代中ごろ、ソ連とアメリカの研究グループが、免疫の統制に重要な役割を果たす脳の構造を明らかにしました。ソ連のグループは、ウサギの視床下部を傷つけることによって、免疫系に変化をもたらしました。この小さな組織の塊は前脳に位置し、ストレス・ホルモンを分泌したり、食欲や喉の渇きを調節したり、体温を調節したり、情動行為に重要な役割を担ったりするいくつかの腺をコントロールします。視床下部を破壊されたウサギでは、異物の侵入に対して免疫反応を高める能力が急激に低下することが観察されたのです。一方、アメリカの研究者たちは、ラットの視床下部の一部を破壊することで、このラットの胸腺が機能不全に陥り、T細胞の防御機能も衰え始めるのを実証したのです。
こうした研究から、視床下部を、からだの防御作戦のための脳における指令本部に例えることができると思われます。そしてまさに脳のこの部分が、情動(深い記憶に伴う悲しみ、痛み、喜びの強い反応)に重要な役割を果たしているという事実から、情動と免疫のつながりに関して、きわめて重要な手がかりが得られたのでした。
視床下部は、私たちの免疫軍に指令を出すだけでなく、ラットの抗原(強力な異物)に対する免疫反応の実験(電気量の測定)から、あきらかに、脳は免疫系から「体が今攻撃を受けている」というメッセージを受け取っていることが証明され、その直後から視床下部は本部として、迎撃作戦の指令を出し始めたのです。
ここで判明したことは、脳−免疫系は、お互いにメッセージを送り出したり受け取ったりしながら、免疫系の反応をうまく調整している、ということです。
「実は、すべての病気を、ほんとうに科学的に治す方法は一つだけ。それは食細胞を刺激することです」……ジョージ・バーナード・ショーの
食細胞とは、異物を飲み込み破壊する白血球のこと。古い言い方で、今は使われていないようです。食細胞と呼びうる細胞にはさまざまな種類があり、その活動内容も多岐にわたります。バーナード・ショーの主張は実は正しい
のです。病気や治療法が何であれ、癒しの作業は結局、私たち自身の免疫系にかかっているからです。
ここで、免疫系を説明するには軍事用語がぴったり合うようです。というのも、この免疫系というシステムは、超大国の国防省のように複雑で、限りなく多様な共同作業を行う異なった部門を数え切れないくらい抱えているからです。
これは、体内の安全を脅かすバクテリア、ウイルス、その他の微生物などの異物を絶えず監視する任務を担った細胞と物質を取り混ぜて編成されています。
それぞれの免疫任務を担った兵力は、他の免疫細胞や免疫物質、ホルモン、そして脳で生産される神経系物質などで構成される巨大な階層型組織から指令を受けます。このような仕組みが存在するのは、液体軍が成功を収めるためには適当な規制が必要となるからです。標的(ターゲット)に対しては、特にそれに適した兵種と、適量の火力で応じなければなりません。
従って、体の免疫反応は、十分に調整された成果です。指令本部、「軍」への明確な信号、そしてつねに使用可能な通信線が、体への脅威を効果的に除去するために必要となります。脳が正確にどの程度まで関わっているのかはまだ十分にわかってはいないものの、脳がそこで中心的な役割を担っていることに、もはや疑いの余地はありません。
獲得免疫系には二つの大きな機構、すなわち「細胞性免疫」と「液性免疫」があり、それぞれがさらに、細かく分かれています。細胞の種類だけでも、唖然とさせられるほどたくさんあります。
「細胞性免疫」の主役は、免疫軍の「歩兵」とでもいうべきT細胞です。T細胞のなかでも主なものは、軍の攻撃力を高めるヘルパーT細胞、侵入にブレーキをかけるサプレッサーT細胞、そして侵入してきた病原菌や細胞などの異物を破壊するキラーT細胞です。
「液性免疫」で主要なものは、B細胞と、100万もある異なる侵入者のどれが来ても攻撃できるようにB細胞が作り出す抗体です。
また、「ナチュラルキラー細胞」(NK細胞)というものがあり、これはガン細胞を破壊するように、あらかじめプログラムされているとされています。
そのほかにも白血球の細胞は種々あり、そのなかには単核白血球や、これと構造的に似通ったマクロファージ(大食細胞)が含まれます。このマクロファージには抗ガン物質を放出する能力があり、これは【自然に備わった化学療法】とも呼ばれます。
このほかにもまだまだ多くの細胞が、多彩な任務をこなしています。免疫系のすべての細胞は、その他のすべての細胞の活動を助け、高める能力を持っていて、免疫反応が集まった複雑な力学の中、共同作業によって、巨大な力を発揮することができるとされています。
これらの免疫細胞が互いに活性化しあうときに命令を伝えるのが、メッセンジャー分子です。免疫メッセンジャーはいろいろな名前、例えば【バイオロジカル・レスポンス・モディファイヤー】などと呼ばれますが、最も簡単な呼び名は、単に【バイオロジカル】です。免疫細胞はこれら【バイオロジカル】を文字通り噴出し、その物質が適当な受け手となる細胞めがけて接近して生化学的メッセージを伝えるのです。
これらの物質によって、免疫細胞は、戦友に情報を伝えたり、戦友を刺激したり、抑制したり、調節したり、鼓舞したり、誘発したりできるのです。こうした物質がなければ、免疫系は、指令と制御の機能を失ってしまうことになります。
私たちは、これらの免疫メッセンジャーについては、何十年も前から知っていました。つい最近までわからなかったのは、脳で生産されて免疫系にメッセージを伝える神経(ニューロ)ペプチドの存在です。また、脳と防御システムの間で絶え間なく、ほとばしるような会話が交わされているということも新たに発見された事実なのです。さらに、脳と免疫系がどのように「話し合う」のかということもわかってきました。
自然治癒力の主役である免疫は、NK細胞のような「自然免疫系」と、T細胞やB細胞のような「獲得免疫系」の協働連携によって成り立っています。
例: 風邪に罹ったとき、始めは鼻水やくしゃみが出ます。それは風邪のウィルスが口、のど、目鼻などで暴れている状態なのですが、この防衛ラインを突破して体内に侵入した時が本当に風邪をひいた状態です。 ここから免疫機構の活動が本格化します。
1.自然免疫系: いろいろな免疫細胞の中からまず、マクロファージと顆粒球(特に好中球)が風邪のウィルスを食べて殺し、さらにNK細胞がウィルス感染細胞を破壊、マクロファージが感染細胞を食べて掃除します。またマクロファージがヘルパーT細胞へウィルス侵入の信号を発します。
2.獲得免疫系: 司令細胞であるヘルパーT細胞は、キラーT細胞に命令してウィルスと戦わせます。高熱が出て咳も激しくなっている時がこの状態です。その一方で、ウィルスに対抗する抗体をB細胞に指示して生産させ、これでウィルスを撃破します。
この戦いでウィルスに勝てば風邪は治ります。それと同時にT細胞、B細胞がこのウィルスの情報を記憶し、再侵入してきた時に備えます。
このような風邪の場合以外でも免疫細胞は、常に身体の中で様々な病原菌と戦い続けています。しかし、環境の変化やストレス、食生活の欧米化などによって私たち現代人の免疫力は低下する一方といわれています。
・ 主要な細胞は白血球で、マクロファージ、好中球、リンパ球といった種類が有ります。マクロファージや好中球は、抗原の微生物や病原菌を飲み込んで分解してしまう大きな細胞で、マクロファージは器官が外界や血管と結合する部分に多く存在し、好中球は血液を循環しています。
・ T細胞、NK細胞が攻撃の主役。ウイルスや細胞内に寄生する強力な菌(結核菌、サルモネラ、レジオネラ、クラミジアなど)やガン細胞に対する防衛です。
・ ウイルスや細胞に寄生する細菌は細胞内で増殖し続けます。T細胞が感染した細胞やガン細胞の異常を発見し、NK細胞やキラーT細胞が感染細胞と結合して殺します。
卓越した心身のメッセンジャーであることが発見されました。単核白血球の表面には受容体(レセプター)と呼ばれる分子が点在し、それが神経ペプチドにぴったりと適合していることが明らかにされたのです。それぞれの受容体は生化学的な形をもっていて、ドアの鍵穴の溝のように、正確に特定の神経ペプチドという【鍵】を受け入れられるようになっているのです。
これは何を意味しているのでしょうか?……私たちの防御細胞は、脳と神経系から送られたメッセージを受け取っているということを意味しているのです。これらの受容体がなければ、情報伝達は不可能であろうし、受容体があるということは、心身の会話の存在も間違いないでしょう。
それは、会話と呼ぶのは控えめに過ぎると言えるほど、内容のあるものだとの証拠があります。むしろ結婚生活に例えるほうがより適切かも知れない。単核白血球は、脳の化学物質に対応する受容体を一つ二つもつだけでなく、今までに発見されたすべての神経ペプチドに合う受容体を持っているのことが明らかにされたのです。つまり、単核白血球は、脳からそれほど多種多様のメッセージを受け取ることができるのです。
神経ペプチドの受容体は、リンパ球にもマクロファージにも「ナチュラルキラー細胞」(NK細胞)にも発見されています。
皆さんの多くがすでによくご存知の通り、1970年代はじめに、エンドルフィンという、脳で生産され、自然の鎮痛剤のような働きをする化学物質が発見されました。エンドルフィンは麻薬の一種で、モルヒネと化学的に似通った神経ペプチドです。
今や、私たちの脳細胞が、こうした麻薬に対応する受容体を持つことがキャンディス・パート博士(C.
B. Pert)達により明らかになり、それが服用した鎮痛剤であれ、自分で生み出した化学物質であろうと、麻薬は脳やその他の神経細胞の上にある分子の【鍵】にぴったりと収まり、私たちの意識に影響を及ぼすのです。
ワイルダー・ペンフィールドをはじめとする神経学者たちは、覚醒状態の人間を対象に実験を行い、脳の中でも辺縁系(へん桃体と視床下部を含む)が情動の中心となることを明らかにしました。
B. Pert)の総括によると、ペンフィールドらの実験は【へん桃体を包む皮質を電極で刺激することによって、ありとあらゆる情動(深い記憶に伴う悲しみ、痛み、喜びの強い反応)を引き起こせた】というものでしたが、これに対してパート達は、脳内の麻薬受容体の位置を図表化し、辺縁系には【脳のほかの部分の40倍も多い麻薬受容体が集中している】ことを明らかにしたのです。
パートは、ほかの情動に対するペプチドと、ペプチド受容体を、辺縁系や身体のほかの部分でも見出しました。彼女はこれを、情動反応の「戦地」と呼びました。彼女はまた、最近、次のように語っています。
『食道から大腸にいたる消化管の全体に、神経ペプチドや神経ペプチド受容体を含む神経細胞などが並んでいる。私たちは本能的な感情を覚えたときに《腸の感情(ガット・フィーリング)》と言ったりするが、それはこのあたりに受容体が多いからかもしれない』
免疫細胞はそれぞれ、エンドルフィンや神経ペプチドに対応する受容体をもっています。従って、このように気分を変えることのできる脳の化学物質は、免疫軍に「話しかける」ことができるのです。こうして、人間の情動に関わる化学物質である麻薬は、私たちの防御システムの調節に、直接的かつ複雑な役割を果たします。そして、これら麻薬の影響を受ける防御システムの多くは、抗ガン作用を持っているのです。
さらに驚くべきことに、免疫細胞は受容体を持つだけでなく、自ら神経ペプチドを生産するとパートは言います。パートの表現によれば、白血球は『体中を流れている脳のかけら』なのです。
一方、脳の細胞も、抗ガン作用のあるインターロイキン1というような免疫化学物質を作るようです。ここに至って、脳と体の会話のほんとうの相互性が理解できたものと言えます。脳と体は、神経ペプチドという同じ言葉を「話している」のです。
神経ペプチドは、異なる系の細胞が相互に作用し合う際に用いられる共通言語です。それは交流の媒体であり、それが共有するのは情報です。このため、MITの神経学者フランシス・O・シュミットは、神経ペプチドを「情報的物質」と呼びます。
ここまで論じてきた心身医学の研究が意味をもつのは、免疫系がほんとうにガンと闘えるならの話です。今日でも、免疫系が体内をパトロールして腫瘍を形成する前にガン細胞を取り除くという「免疫監視」理論に
異議を唱える科学者たちがいます。しかし、科学的な証拠を注意深く検討した結果、免疫系が少なくともいくつかの種類のガンを防ぐことができるのは明らかであると言えます。さらに、私たちの防御機構には、すでに存在する腫瘍の転移を止める力があるのも間違いないと言えます。免疫の力は、悪性腫瘍の転移を止める、唯一とは言えないまでも、大変重要な要因なのです。
免疫監視系のはたらきの理解のために、そもそもガンがどのように発病するかについて考察するのも有意義でしょう。
それは、私たちの体内の10兆にものぼる細胞のうちの、たった一つの正常な細胞から始まります。この正常な体細胞が、ほんの10年ほど前に明らかにされたばかりのメカニズムによって、ガン細胞に「変容」するのです。
すべては、細胞核の中にある糸に通したビーズのようなDNAが集まった小さな単位、遺伝子から始まるのです。
それぞれの細胞は約5万の遺伝子を持ち、それぞれの遺伝子には極めて重要な細胞活動の青写真(ブループリント)が入っています。こうした活動は生命に関わるものばかり。身体的機能、容貌、行動、性格特性、これらすべて、DNAの極く小さなかけらの中に暗号化されています。
1970年代から、分子生物学者たちは、ある「ガン遺伝子」が正常な細胞を悪性に変える引き金となることを明らかにし始めました。(※)
※ ガンの根本的なメカニズムが遺伝子にあるからといって、すべてのガンが遺伝するということにはなりません。遺伝する場合もありますが、多くのガンは遺伝しません。
こうした「ガン遺伝子」も初めは、細胞内で特定の重要な機能を果たす正常な遺伝子でした。これらの遺伝子は、細胞の成長やエネルギー代謝を調節する役割を果たすことが多いとみられます。この遺伝子が正常に機能しなくなったとき、悪性化は始まります。恐らく、まだスイッチを切ったままにしておかなくてはならないときに、スイッチが入ったのだと思われます。
この「スイッチの入った」遺伝子が原因となって、細胞を変形させたり、むやみに増殖させたり、隣り合う細胞を傷つけたりするたんぱく質が生産されます。まるで、工場の組み立てラインのスイッチが止まらなくなり、製品が次から次へと、処理し切れないほどの猛スピ−ドで作られ、しまいに労働者を圧倒し、溢れかえって互いに潰し合うというような状態なのです。
科学者たちは、発ガン物質やウイルス、そして放射線が細胞の仕組みを妨害する要因であると考えています。しかし、遺伝子のスイッチを入れる特定の要因を割り出せてはいません。いくつかのガンについては、その原因はいまだ謎のままです。こうした一見「自然発生的」なガン発生について、さまざまな説明がなされています。例えば、遺伝子の突然変異、分裂による遺伝子の配列替え、および、「ガン遺伝子」を抑える働きのある「抑制」(サプレッサー)遺伝子の欠如です。
私たちはみな、等しく、大気や水や食べ物に含まれる環境汚染物質にさらされています。ガンを引き起こすウイルスにも、太陽の紫外線にもさらされています。しかし、発ガン物質に数度さらされなければ、体細胞がガンになることはないと、ガン研究者たちは確信しているようです。「ガン遺伝子」のスイッチが入るには、こうした攻撃が度重なる必要がある、と。
なぜなら、腫瘍の成長にはいくつもの段階があり、一度発ガン物質に接しただけで発病することはほとんどありません。幸いなことに、私たちは細胞がガンになる前でも、なった後でも、さまざまなレベルで調整したり防御したりできるのです。ガンの成長の各段階に応じた防御システムで、脅威に立ち向かえるのです。
体内の免疫番兵である白血球は、発ガン物質が細胞を攻撃する前に、それを取り囲んで、飲み込み、中和することができます。もし、発ガン物質が私たちの遺伝子を乱したなら、体細胞には修復メカニズム(化学的なハサミのようなもので切り取ることによって、遺伝子の突然変異を削除する酵素)が用意されています。そして、最後に、もし細胞が悪性化してしまったなら、私たちの体内にはその侵入者を見つけ出して殺すこともできる細胞兵がいるのです。
細胞や物質を、「自己でない」異物から識別できる能力が、生まれつき備わっています。免疫系が異物(バクテリアやウイルス、菌類など)を認めると、警報が鳴り響き、すぐに細胞兵が招集されます。このような識別は免疫系の鋭い感受性に頼っています。
この感覚器官は精妙に調整されていなければなりません。そうでないと、自分自身の細胞を攻撃しはじめ、慢性関節リウマチや狼瘡のような、組織を破壊する病気を引き起こしてしまいます。
ガンには、二重スパイとしての問題があります。ガン細胞はもともと正常な細胞でした。それがガンになると、「私たちの仲間」ではなく「敵方の侵入者」に変わります。幸い、私たちの免疫細胞は見張り番であり、警察官であり、兵士であるばかりではなく、探偵でもあります。無法者のガン細胞は、体細胞に対して裏切り者であるという身元を隠していることが多いため、探偵による探索も必要なのです。
免疫探偵は、こうした裏切り者の細胞の仮面をはがすのに、分子レベルの指紋を頼りにします。多くの種類のガンにおいて、正常な細胞が悪性化したとき、細胞の表面の分子が変化するのです。こうした分子は、かつては「自己」のサインを持っていましたが、今では「自己でない」サインを持っています。免疫学者たちの間で、「ガン特定抗原」「腫瘍関連抗原」として知られているそのサインが、免疫探偵に裏切り者を警告してくれる”指紋”なのです。
「免疫監視」理論によると、T細胞も抗体も探偵として異物の指紋を認識できます。それを認めると、彼らは徹底的な反撃を始めます。しかし、この指紋に関しては、まだ議論が盛んです。この論争は複雑ですが、単純化して言えば、メラノーマや白血病などいくつかの種類のガンの抗原は分離に成功したものの、ほかの種類のガンについては、指紋が「微弱」過ぎる。すべての悪性腫瘍に特定の指紋はあるが、そのすべてが発見されていないだけなのか?、それとも指紋は一部の細胞だけにしか存在しないのか?ということです。
この分野の研究には大きな将来があります。”指紋”の謎も今後解き明かしてくれることでしょうし、いつの日か、ガン抗原を入れたワクチンがガン予防に用いられるかもしれません。このようなワクチンは、メラノーマや肺ガンなどについては、すでに開発されつつあるのですから。
特定のガン指紋の存在以外にも免疫系の力を証拠立てるものがあります。私たちの防御システムは必ずしも”指紋”を見なくてもよいことが、最近の研究によって明らかにされています。もちろん、T細胞も抗体と言った免疫探偵は、活動を始める前に、明瞭な指紋を認知するはずです。しかし、私たちは間違えようのない印さえ必要としない、不特定免疫要因も持っています。これが、抗ガン兵器庫の秘密兵器です。
単核白血球、マクロファージ、そして「ナチュラルキラー細胞」(NK細胞)は、すべて不特定に活動できます。これらは、指紋を見つけなくてもガン細胞を認知できるらしく、目指す敵との闘いにまっしぐらに向かいます。ほかの細胞から進撃命令を受けることなく、こうした免疫戦士たちは悪性細胞を文字通り、つかみ、粉砕します。その上、これらの免疫細胞は、ガン細胞を衰えさせ、さらには全滅させることのできる生物学的物質を作ります。よく知られているのは、インターフェロン、インターロイキン2、腫瘍壊死因子(TNF)などです。
組み換えDNA技術のおかげで、科学者たちは今や、こうした物質を体外で大量生産できます。インターフェロン、インターロイキン2や、TNFは、すでにガン治療に用いられ、ある程度の成功を収めていると言っていいでしょう。インターロイキン2によって活性化した免疫細胞を患者に注射する治療法とか、患者自身の抗ガンリンパ球にTNFの生産を指示する遺伝子を注入し、悪性のメラノーマ細胞を体外に除去させる治療法など、全体として見れば、この種の研究の成果はまちまちといえます。
しかし、自分の体の化学物質を使った治療のおかげで、すっかり症状が治まったガン患者が存在するのは間違いのない事実です。ガンの「免疫療法」はまだ初期段階ではありますが、ガン治療の将来に大きな希望をもたらすものです。恐らく、近い将来、自分の体の産物も混ぜた強力な「カクテル」薬が、ヒトのガンの主要な治療法として、現在の化学療法や放射線療法に取って代わるかも知れませんね。
TNFの発見者の一人であるロイド・J・オールド博士は、最近の記事の中で、私たち自身の免疫防御力をガンと闘うように仕向ける新しい医学療法について、次のように述べています。
うまくいけば、この新しい治療法は、体に自然に備わる抗ガン力を誘発し、何代にも及ぶガン研究者たちの想像力をかきたててきた腫瘍の退縮をもたらし続けるであろう。その力は存在する。行く手にある仕事はその力を発揮する方法を見つけることである。
これらのことはみな、私たちの体にはガンに対する強力な兵器を収納している兵器庫があるとの証拠です。問題は、もはや、「私たちの体は効果的にガンを除去できるか?」ではなく、「私たちの体が効果的にガンを除去できないのはなぜか?」なのだと言えるでしょう。
機構がうまく働かない場合、その理由の一つに、ガン細胞のずる賢さがあります。悪性の細胞に、免疫の見張りの目をくぐり抜けて破壊を免れるものがあることはわかっています。彼らは分子レベルの指紋を隠すのです。自分が悪者であることを示す抗原を実際に捨ててしまうものもあります。まるで、こそ泥が盗みを働いた後、通りに出るや否や身なりを変えるようなもの。
防御機構の失敗については、免疫系がきちんと仕事をしないために、腫瘍が成長するのだとする理論もあります。心と体のコミュニケーションに深いつながりをもつこの理論の方に注目したいところです。防御ネットワークの機能不全説を支持するデータは、長い間あまり見つかってきませんでしたが、最近になって増え始めています。免疫系の弱まった
HIVに感染し、免疫系が手の施しようもなく損なわれてしまった患者では、リンパ腺ガンやカポジ肉腫という恐ろしい皮膚ガンになる確率が高いことはよく知られています。あるいは、臓器移植を受けた患者の調査を見れば、もっと説得力のある証拠が見つかります。患者は移植を受けた後しばらく、拒絶反応を起こさないように免疫を抑える薬を服用します。その不幸な副作用として、免疫力が弱まり、菌やウイルスに感染しやすくなりますが、今日では、このように免疫を抑えられた患者は、一般の人に比べ、リンパ腫や皮膚ガン、肝ガン、カポジ肉腫、そして外性器のガンになる確率がずっと高いことが知られています。これは、シンシナティー大学の外科教授、アーヴィン・ペン博士の研究が明らかにしたことです。ペン博士は20年間に及ぶ臓器移植を受けたガン患者4,500人以上のデータから、免疫抑制剤の量を減らすと、患者の腫瘍は「縮むか消える」という結果を得たのです。
また、ピッツバーグ癌研究所所長のロナルド・ハーバーマン博士も、移植患者の薬の量を減らしたとき、多くのリンパ腫やほとんどのカポジ肉腫が文字通り「溶けてなくなる」ことを明らかにしました。さらに、ピッツバーグ大学移植チームの病理学者マイケル・ナルスニック博士はこうコメントしています。
「論理的に、患者たちは正常な免疫反応のおかげで腫瘍を拒否していると結論される。そして、普通の人たちはそれに気付くことなく、いつもそうしているのである」。
このような発見から、「免疫監視」が存在し、少なくともある種のガンを防ぐように機能していることがわかります。有名な研究者であり、『細胞の生命』を含む数々の本の著者であるルイス・トーマス博士は、ガン免疫学の将来について、こう述べています。
「私たちのうちほぼ75パーセントが生涯ガンにならない理由は、私たちの75パーセントには、十分鋭敏に察知できる免疫機構が備わっていて、新生細胞の最初のクローンをすぐに認知し除去することができるからである。明らかにされなくてはならないのは、私たちのほぼ25から30パーセントの人がガンを発病するが、その人たちの免疫反応が正常に働かないのはなぜか?という理由である。」
トーマスの最後の疑問にすべて答えられるわけではありませんが、防御機構がどれだけ強力に、どれだけ鋭敏に働くかを決定するファクターには、環境、遺伝子、食習慣、そして心理的要因が含まれていることはわかっています。
免疫系にあらゆる種類のガンの発病を食い止める能力があるかについてはなお疑問が残りますが、私たちの防御機構がすでに存在する腫瘍の転移を止められるという点については、ほとんど疑問の余地はありません。そして、この転移こそ、ガンの最大の脅威なのです。
いったん腫瘍が体内に形成された後一番怖いのは、その細胞が飛び出してリンパ系に侵入することです。そこから、細胞は実際にリンパ管と毛細血管を突き破って血流に入り、遠くの場所にまで運ばれます。血液によって運ばれたガン細胞は、重要な器官の中などに安全な隠れ家を見つけると、そこに「店開き」して、悪性細胞の新しい集落(コロニー)を作り始めます。これが転移ガンとなります。転移とは、常にガンが体に勝った結果なのです。
こうして、肺や肝臓といった生命の維持に関わる器官が侵されると、治療が非常に難しくなります。
ところで私たちはうまいぐあいに、血流に入って致命的な転移を起こすたぐいの、やっかいなガン細胞を破壊するのを専門にしている特別な免疫兵を持っています。それが、ナチュラルキラー細胞です。ナチュラルキラー細胞がユニークなのは、ほかの免疫細胞の助けを借りずに、血液によって運ばれる悪性細胞を破壊する能力がある点といえます。要するに、免疫軍のほかの兵士たちが見落としたガン細胞に「速攻」を加えることができるのです。
ナチュラルキラー細胞に、血流に乗って運ばれるガン細胞を制圧する能力があるということは、多くの劇的な動物実験で証明されています。免疫学者たちは、マウスなどの動物の免疫系はヒトの免疫系と非常に似通っており、そこから、私たちもガンの転移を止めるナチュラルキラー細胞をもつと推論できるとしています。
ピッツバーグ癌研究所の免疫学プログラムの主任は、最近のインタヴューの中で、動物のナチュラルキラー細胞の能力に関して驚くべき実験をしたと、次のように語っています。
「私たちにはマウスのナチュラルキラー細胞を完全に無くす技術がある。そのあと、腫瘍細胞を注入すると、肺が腫瘍で破裂してしまった。だから、ナチュラルキラー細胞が腫瘍細胞の拡散を制御しているのは間違いない。また、腫瘍を注入した後、ナチュラルキラー細胞を戻してやれば、腫瘍は確実に小さくなり消えてしまう。ナチュラルキラー細胞が最初の腫瘍形成を妨げるかどうかは確かではないが、いったん腫瘍細胞が血流に入り込んだなら、ナチュラルキラー細胞が決定的にコントロールを握るのである。」
ガン患者が転移で命を落とす以上、転移をコントロールするナチュラルキラー細胞こそが患者の生存に最も重要なものとなるでしょう。
最近次々と明らかにされている証拠から、心理的要因がナチュラルキラー細胞の活動に影響を与えていると結論付けられます。今のところ、ナチュラルキラー細胞は、ガンにおける心と免疫との関連を示す最良の証拠なのです。
ナチュラルキラー細胞研究の第一人者は、1972年にこの細胞の存在を発見したロナルド・B・ハーバーマン博士 (ピッツバーグ癌研究所所長) です。ハーバーマンとピッツバーグ癌研究所の生体行動的腫瘍学プログラムの前責任者であったサンドラ・リーヴィ博士は、1980年代初めから、国立ガン研究所とピッツバーグ癌研究所において、10年以上にわたって、心理的要因と乳ガンの成長に関して注目すべき一連の研究を共同で行ったのです。
二人は、ハーバーマンの免疫学の専門知識と、リーヴィの行動心理学の専門知識を活かし、対処法とガンに関する研究の共通基盤を得たのです。彼らは、ナチュラルキラー細胞が実際にガンの転移を抑えられるという仮定のもとに、ナチュラルキラー細胞の数だけでなく、その活動、すなわち、目標とする細胞をいかに効果的に倒すか、を測定する精巧な検査を行って、ガン患者の行動とナチュラルキラー細胞の関係を分析したのでした。
乳ガン患者のうち、自分自身の病気に「適応」してしまい、疲れて無関心に見える人、そして社会的サポートのない人ほど、ガンになったリンパ節が多く、ナチュラルキラー細胞の働きが弱いことを、リーヴィは明らかにしました。リーヴィの示した性格特性は多くのタイプC患者に見た受動的で無力なスタイルを思わせました。リーヴィはこの乳ガン患者のグループの追跡調査を継続しました。その結果、受動的な患者はナチュラルキラー細胞の働きが低調なだけでなく、早く再発する傾向があること、タイプCのような対処スタイルをもつ患者は、ガンが転移しやすいことがわかってきたのです。
「ガン患者は自分の対処スタイルを変えて、ナチュラルキラー細胞の防衛機能を強めることができるか? これは、転移を防ぎ、生存率を高めるのに役立つであろうか?」
ハーバーマンとリーヴィは、その答えを追い求めて、エール大学とペンシルベニア大学の二人の心理学教授とともに、心理療法が患者の自然に備わった免疫を高める事ができるかどうか見るための予備的調査を行いました。メラノーマ患者と結腸癌の患者30人に、普通の医学的な治療を受けさせ、その後、半数の患者には、リラクゼーション技法と認知療法についての講習を8週間行いました。リラクゼーション技法は患者のストレスを減らすのに役立ち、認知療法は、患者が抑うつ状態に対処し、コントロールを回復して、楽観主義を養う手助けをします。
2年後、認知療法を受けた患者群におけるナチュラルキラー細胞の活性が非常に上昇し、免疫活動を高めたことが立証されることとなりました。加えて、抑うつが少なく、自責的傾向も少ないという結果を得、今後は寿命を延ばせるかどうかの追跡調査を行って見守っていくことでしょう。
ナチュラルキラー細胞の防御力は、微妙な心理的影響に極めて敏感なようです。これは、心理学者と、免疫学者による、オハイオ州立大学におけるPNIの共同研究の結果です。
医学部一年生を対象とした調査で、試験のストレスによりナチュラルキラー細胞の数も活動も減少したことがわかった。中でも印象的だったのは、特に孤独を感じていた学生のナチュラルキラー細胞が最も少なかったという発見でした。
孤独感はストレスの影響を倍加し、さらに防御力を弱めていました。彼らの研究成果は、いたわりや社会的サポートを求める要求が満足されなければ、免疫系と全体的な健康が損なわれることを示したほかの多くの研究者たちの結論と一致します。
同じ共同研究のチームで、最近、アルツハイマー症の身内を介護している人を対象に調査をおこなったところ、介護している人たちの免疫力は著しく弱く、特にT細胞の防御力が弱かった。
介護者の立場は厳しく、日々の辛い仕事に耐え、愛する者が悪くなっていくのにも耐えなくてはなりません。しかし、彼らはただストレスが多いだけではありません。大いに自己を犠牲にしなくてはならない役を強いられているのです。彼らは患者のために、自分の要求を脇に置かなくてはならず、ある意味で、タイプCの人たちが何年もかけて条件付けをしたのと同じような状況に突然追いやられてしまったともいえます。
タイプCの人は、たとえ、悲しい喪失やトラウマに直面しているときでも、他人のために自分の要求を脇に置く。タイプCの人も大きなストレスのあるときには、免疫力が低下しているかもしれません。世話をしてもらえる人はいないのですから。この意味で、自己犠牲と孤独感には関連があるのかもしれない。タイプCの人は、誰でも利用できるサポート・システムを利用したり、自分からサポートを求めたりできないので、孤独であることが多い。タイプCの人で、介護をしている人、あるいは、そのような役回りを強いられた人は誰でも、いたわりの得られる場を見つけることによって、免疫力を維持できるようになります。このことの詳細については後述します。
生体の防御力に与える影響から見て最も危険な精神状態は、慢性的な絶望と無力感です。研究者たちによるラットの実験から、「ストレスの源」を学習によって取り除ける「コントロールできた」マウス群と、取り除くことができない状態の無力なマウス群の比較を行いました。
結果は、無力なマウス群はナチュラルキラー細胞の活動が鈍く、移植された腫瘍の成長が早かった、と同時に体内麻薬(脳で作られる鎮静作用のある化学物質)が多いことを発見しました。そして、的確な実験を重ね、この体内麻薬には免疫細胞を弱め、腫瘍の成長を促進するはたらきがあることを突き止めたのでした。
無力な動物は心身ともに痛覚脱失状態に陥るのでしょう。彼らの脳は、麻痺させる生化学的物質を放出することで、逃れられないストレスに反応するのです。
そして、体内麻薬は免疫細胞受容体に付着し、免疫反応にブレーキをかけるように「指示」するのです。このため、ナチュラルキラー細胞の力は急激に衰えます。麻薬常習者が感染症をはじめあらゆる病気にとくにかかりやすいのは、これと同じメカニズムによります。
「ストレスの源」を学習によって取り除く「コントロールのできた」マウス群には、過剰な麻薬物質は見られませんでした。免疫系の損傷もありませんでした。科学者たちは、今、麻薬物質と免疫系との複雑な絡み合いを解明しようとしています。
「普通の」ストレスは、まず麻薬物質を一瞬放出させますが、これはほとんど影響を残さないか、あるいは実際に免役を高める働きをするようで、激しいストレスに反応するときに起きる損傷を防ぐため、体に先天的に備わった予防と言うことができます。例えば、ジョギングのように適度に激しい運動をするする人は、エンドルフィンの値が短期間あがることがプラスに作用するといいます。
しかし長期的な、あるいは避けられないストレスは、麻薬物質を過剰生産させるようです。このとき、脳は麻薬作用のある神経ペプチドを着実に放出し続けます。こうして余った麻薬物質が、私たちの防御力を弱める犯人ともなりうるのです。別の説明も可能です。慢性的で逃れられないストレスを受けている間に分泌される麻薬物質は種類が異なり、特定の免疫細胞の活動を高めるのではなく、弱めるタイプなのだと考えることもできます。
おそらく、これが普段のストレスが体に悪影響を及ぼさない理由であろうと考えられます。私たちの多くは、ありふれたストレスは、克服すべきチャレンジとして前向きに考えます。「普通の」ストレスは、健康を向上させることさえできると示す調査もあります。しかし、逃れることのできないストレスに直面した人や、無気力な反応をする傾向を生来持っている人は、気落ちしたり、燃え尽きたり、あきらめてしまったりすることがあります。このようなときに、自分の運命をコントロールできなかった無力なマウスのように、病気にかかりやすくなるのです。
マウスばかりでなく、人間についても、抑圧的なタイプC対処法が免疫防御力を低下させることを示す研究があります。心理学者ゲリー・シュワルツと、エール大学医学部の複数の心理学者たちによる312人の受診患者に対する調査の結果、抑圧的な患者はほかの患者に比べて、重要な防御細胞である単核白血球が非常に少なかったのです。「防衛的で不安度の高い」やり方でストレスに対処していた人は、さらに低い数値でした。
「防衛的で不安度の高い」患者は、腫瘍がいちばん大きく、それはタイプCでありながら心理的防衛機制がくずれ始めた人たちでした。彼らは不安を感じていたが、その不安を表現したり解消したりできる経験も対処技術も持ってはいなかったのです。このため、彼らは無力感と絶望感に陥りやすく、それは健康的に最も危険な精神状態でした。
シュワルツの研究結果によれば、ネガティヴな感情を抑えるタイプCの人は、その免疫機能を長期にわたって損なうのかもしれません。彼らの心理的防衛力がぐらついて、解消されない不安や絶望に向かうとき、彼らの免疫防御ネットワークは、さらにひどいダメージを受けるのではないでしょうか。
これら、抑圧する人と防衛的で不安度の高い人は両者とも、前項で述べた無力なマウスと、生物学的に共通点がありました。血液とホルモンの検査結果を分析したところ、どちらのグループでも脳と体内の麻薬物質の量が増加していました。その過剰な麻薬物質は抑圧的対処法の結果であり、それが免疫細胞の減少を引き起こしたのだ、と言うのが心理学者たちの結論でした。
このシュワルツの理論は、タイプC行動が人をガンにかかりやすくするのは何故か?を説明してくれる、一つの合理的で明快な説といえるでしょう。確かに、ガンとのつながりの根拠となるメカニズムや、心と体の連絡路は、他にもあります。アドレナリンのようなストレス・ホルモンも、ガン防御力を弱める働きに関わっているようですし、その仕組みについても明らかになってきました。
ガンにおける重要な心理的要因としてのタイプC行動と潜在的な絶望・無力感が問題とされてきたのです。そして、この両者とも、体内で鎮静剤的化学物質の過剰生産を招き、こうした麻薬物質が、私たちの抗ガン防御力を低下させ、腫瘍を成長させる危険性を増大させるように思われるのです。
脳では、情緒的なストレスや苦痛も身体的なストレスや苦痛と同じように処理されます。つまり、即座に「闘争か逃走か」(ファイト・オア・フライト)反応をするのです。タイプCの人は、この本能が働かなくなっていて、腹を立てるとか、怯えるとかいうような情緒的に脅かされた状態におかれたときに、条件付けにより、反応できなくなっているという言い方もできます。
いつも上司に罵倒されているタイプCの人がいたとしよう。毎日毎日、上司から延々と続く屈辱的な非難を浴びせられていた。しかし、怒鳴り返すどころか、言い返すだけでも、即刻クビになると彼は思い込んでいました。かと言って、黙ってその場を立ち去っても、上司を怒らせることになるだろう。善良な人によく見られる板ばさみ状態でした。彼がその悲惨な状況を変えられそうな反応は、「闘争(言い返す)か逃走(立ち去る)か」の2通りなのですが、どちらの道も彼には耐えられそうにありません。これは、「回避−回避の葛藤」と呼ばれます。彼にできそうなこととといえば、ただそこに立って、笑みを浮かべて上司の罵倒を聞くことだけでした。
私たち人間も、動物と同様、脅威に直面すると、「闘争か逃走か」(ファイト・オア・フライト)反応で対処し、体がいつでも闘うか退くかできる状態になるものです。ところが、このタイプCの人物は、「闘争か逃走か」反応で脅威に反応できないのです。しかし、脅威は減らず(上司は彼を罵倒し続ける)、内的緊張が高まります。このような行動を何ヶ月も何年も続けていると、この解消されないストレスに対して、体は麻薬物質を流し続けて反応します。彼はまるで、サイドブレーキを引いたまま走る車のように前進します。疲れとか抑うつは感じているかもしれないが、体の
人間も含め、動物は「闘争か逃走か」(ファイト・オア・フライト)反応をするとき、体の導火線に火が付く。
心−身は、危険を評価することに始まり、すぐに体の準備、行動、感情の解放、そして、最後に再び休息状態にもどるというサイクルを一巡する。もし、闘争も逃走もしないなら、行動の前の段階で止まってしまう。この段階では、アドレナリンなどのストレス・ホルモンが、先ほど述べた麻薬物質と同様に、体じゅうに満ちている。こうしたホルモン(コルチコステロイド)は私たちの免疫系を消耗させることもわかっています。T細胞やほかの
免疫防御体には多くのストレス・ホルモンのための受容体があり、これらの影響を受けるのです。
つまり、抑圧する人は、麻薬物質が過剰になるだけでなく、免疫を抑えるストレス・ホルモンも大量に抱えることになる。そして最終的には、これまで論じてきたとおり、T細胞群、ガンを殺すマクロファージ、そしていつも警戒を怠らないナチュラルキラー細胞が損なわれるのです。
以上のように、脳にある情動の中枢に始まり、麻薬物質のような神経ペプチド・メッセンジャーやアドレナリンのようなストレス・ホルモンによって取り次がれ、免疫細胞防御体の行動を変化させることに終わる、心−身コミュニケーション・ネットワークがある。これこそが、タイプC行動とガンとのつながりに関係しているように思えます。
タイプCの人たちは、他の病気にもかかりやすいとされています。感染症や、免役のアンバランスから生じる自己免疫疾患になりやすいものと考えられています。
抑圧的な人の性格特性を、喘息や関節炎、そして高血圧に結びつけた研究があります。1960年代に、スタンフォード大学のジョージ・F・ソロモン博士は、慢性関節リウマチ患者の性格特性を調査しました。これは、関節が熱を持って腫れ上がる、苦しい病気です。調査の結果として、ソロモンは関節病患者を次のような性格であると述べました。
「おとなしく、内気で、依存しやすく、真面目で、感情(特に怒り)を抑圧し、従順で、自己を犠牲にし、安請け合いをし、他人からの批判に敏感で、人付き合いが悪く、極端に活動的で忙しく、頑固で、冷たいところがあり、支配欲が強い」
タイプCは《エイズ》にも影響するでしょう。エイズは、免疫系が急激にダウンする病気で、エイズとHIV関連症状を持つ患者に対する調査の結果、これらの患者に心理的対処法と免疫力とのつながりがいくつか見つかっています。
たとえば、エイズ患者のうち、不安と疲れが少なく、一歩退いて自分自身を労わることができ、嫌な頼まれごとを断ることができた人は、さまざまな免疫細胞の数も多く、うまく機能していました。免疫系が比較的良好な状態にあるエイズ患者は、ストレスが少なく、自己主張をし、自分の要求を満たすことのできる人でした。彼らは、病気に直面し、善良な人間を演じたいという誘惑を退けることができたのでした。また、発症後も長く生きているエイズ患者は、人生に意義を認め、問題を解決するタイプで、自分の人生や運命をコントロールしている実感があり、要求や感情を表現し、医学的な治療も自分の責任においてきちんと受けていました。
こうしたことから、長生きしている人を含めて予後の良いエイズ患者は、タイプCではないことがわかります。彼らは活動的で表現力があり、自己主張できる。その逆も間違いないところでしょう。タイプC性格を持つエイズ患者は、病気が速く進行する危険性があるでしょう。
ソロモン博士は、タイプCのような行動がさまざまな自己免疫疾患を導くと考察しました。
それでは、タイプCの人のうち、ガンになる人と、例えば関節炎になる人がいるのは何故か?
タイプC行動こそが、ガン予防の働きをする免疫軍に特別な打撃を与えるものなのです。
感情を表現する人の腫瘍は成長が遅く、免疫反応が強いのに対し、感情表現しない人は腫瘍の成長が速く、防御力が弱いことがわかったのです。
腫瘍の成長を防ぐ働きをしている心−身メカニズムは他にもあるかも知れません。すべての細胞にはDNA修復機構があり、それでガンを覆ってしまうことができるのだが、感情的苦痛がこの初めから備わった保護機構を傷つけることがあるとも言われます。また、精神状態に影響されたホルモンのアンバランスが、乳ガンなどの悪性腫瘍を起こす場合もあるようです。適当なホルモンのバランスを保ち、腫瘍を寄せ付けないようにするのに、おそらく《感情》が重要な役割を果たすのでしょう。しかし、今、私たちにとって確かなことは、ガンと心は免疫系を通じてつながっているということです。
タイプC患者は、自分の行動が招く身体的な悪影響をくつがえすことができるのでしょうか?
現在までの研究によると、《感情》を表現することで、心と体を目覚めさせ、私たちすべてに備わったガンに抵抗する自然の力を強化できるといいます。しかし、感情を表現することは簡単ではないし、それがタイプC行動を変える唯一の要因でもありません。ガン患者およびガンを予防したいと願っている人たちがどうすれば自分たちのパターンを変えて、より健康になれるかについては、第二部を参考にしてください。
人間の心を知ることによって、人は成長することもあれば、悩みが生じることもあります。このようなことはどの分野の知識についても言えることです。例えば、原子物理学は効果的なエネルギーを生み出すこともできれば、恐ろしい原子爆弾を作ることもできるし、医学の知識は命を救うこともあれば、倫理にもとる実験に使われることもあるのが現実です。このページで語られている【心身医学】でいえば、人間の全体性(ホールネス)と健康の回復に役立つと同時に、不当に自分を責める原因ともなるようです。
心と体のつながりを正しく理解し、慎重に適用するならば、セラピストも患者も、病気やその進行について責められるべき人は誰もいないことを納得できるはずなのです。
しかし、現実には、心−身のアプローチを誤って適用したり、誤解したりすると、患者は自分がガンを引き起こしたのだと信じ込んでしまうことがあるのです。この、自分が病気を招いたという考え方にもいろいろあります。
ある患者は「間違った」生き方をしたからガンになったのだと考えます。「悪い」行動を続けてきたから罰せられたのだと感じる患者もいます。また、再発した患者には、自分が病気との闘いで心をうまく利用することに「失敗した」せいだと考える人もいます。
こうした考え方は、心身医学の「治療者」や、その他、無防備な患者たちに、心と体について歪んだ考え方を無意識に与える善意の人たちが、意図せずに仕掛けた落とし穴であることが多いのです。
ですから、私たちはガン患者と接するとき、この【自分を責める】という落とし穴を避けるように手助けする必要があります。ここまで繰り返し述べてきたように、例え、タイプC行動がガンの進行に寄与したとしても、このパターンそのものは責められるべきではありません。タイプCの人の対処法のまずさは、初期の条件付けの副産物として《意図せずして》生じたものだからです。そんな彼らになんの罪があるでしょうか?
患者は自分の行動パターンを確認すると同時に、自責の念を防ぐ手だてとして、自己憐憫術を習得するように後押ししてもらうべきでしょう。患者は、次のようなことに気付くと自責の念を克服しやすいとされます。
これらを受け入れることは必ずしも容易ではありません。こうした基本的な《真実》を受け入れられるようにするのは、《自分を愛する》ことが必要です。
そうすれば、自分の行動パターンや問題のある人間関係、嗜癖、不幸、そして病気のことで自分が悪いと思う気持ちをはじめとした、あらゆる場面で感じる自責の念を【拡散】させることができるようになるものです。こうした自責の念はいずれも有害なものですが、タイプCの人によく見られる傾向です。
一方で、ガン患者の自責の念に火を注ぐ結果となっているのが、『心は物質に勝る』とか『病気は自分で招く』とか『男らしくガンと闘う』などといった、一般に広まっている誤った神話です。こうした神話には根拠がないにも関わらず、タイプCの人たちはなぜかこれらを信じやすい傾向にあります。
他方、多くの保守的な医者や科学者たちは、心身医学は自責という悪影響を招くとして非難してきました。それではまるで、「この知識は悪い人の手に渡ると危険だから、なかったことにしよう」と言っているようです。これは悲しむべき退歩を意味するものでしかありません。私たちは、こうした知識を脇へ追いやるのではなく、知性と配慮をもってこれを応用することを学び、深刻な病気の人が、不必要な罪悪感ではなく、希望と力を培えるようにすべきではありませんか。
自責の問題は、「自分を責めることなく、病気を癒す力を受け入れるにはどうすればよいのか?」という問いに集約されるのです。
ガン患者が、自責の念を抱くことなく、タイプC行動に気付き、これを変えられるという成功例を増やしたいのです。患者は自分のパターンを確認したとき、たいていほっとするものです。タイプCの説明を読んだり聞いたりした時、彼らは言います。「これ、私と同じだわ。まさにその通り。私っていつもこうだったの」と。
そして自分一人ではなかったと安心し、人にもわかってもらえそうな気になれる。自分の行動パターンに名前をつけ、その名前により問題を認め、同じ痛みをもつ他人と協力し、変容(トランス・フォーメーション)への道を歩み出すことができるようになるのです。自分の行動と病気とのつながりに気付いたときに、生活の質(Quality
ガン患者で自分を変容させる人、闘う人、精神的啓蒙を求める人は、自分の努力が体の回復力を高めると信じて発奮することが多い。それはまったくもっともな理由であり、多くの場合その通りになります。しかし、体の回復がどうであれ、その変容にはそれ本来の価値があり、延びた寿命の長さで測るべきものではないのです。
バランスのとれた心と体の癒しは、自責の念ではなく、力を生み出します。自分が全能だという誤った思い込みを避けるためには、このバランスが大事です。病気と闘うとき、限りない力を発揮できると空想すると、もし仮にこの「闘いに敗れる」と、失敗したという気持ちになってしまいます。私たちはみんな人間であり、人間であるがゆえの限界があるという現実的な考えを基本にした上で、自分自身の治癒力を信じるのが健康的でしょう。治癒は、無力と全能という危険な両極端の間の中間地帯に位置するのです。
私たちの文化では、心と体のつながりが微妙に薄められ、歪められてきました。医者や家族が絶えず患者に発している一つの単純な言葉が、この問題を端的に表しています。
もともと、この忠告にはそれなりの意義がありました。しかし、何度も使われるうちに、問題の多いニュアンスを帯びるようになってきたのです。実際、「前向きな姿勢」という言葉は、ガンに取り組む健康的な方法とは正反対の意味に解釈されることが多いようです。
「前向きな姿勢」をもてはやす傾向に火をつけたのは、1979年にベストセラーになった、故ノーマン・カズンズの『笑いと治癒力』(岩波書店)です。この中で、著者は、強直性脊椎炎という脊椎の結合組織の退行性疾患と闘う自分の姿を語っています。カズンズは医学的な治療を自分で管理しようと決心しました。自分自身の研究成果と、特別心の広い医師、そして心と結びついたときの体の再生力を信じる気持ちに守られて、カズンズは自分の計画を実行に移します。
中心的な戦略は、ビタミンCを大量に飲み、同時にポジティブ(前向き)な感情を呼び起こすべく系統立った努力をするというものでした。今ではすっかり有名になったエピソードですが、カズンズは病室に映写機を設置し、マルクス・ブラザーズの映画を見て、健康になるまで笑い続けようとしたのでした。
数ヵ月後、カズンズはすっかり回復します。そして、心と体は相互作用をするというこの概念は、医者・患者・学者、そして健康に関心のあるすべての人の想像力をとらえました。しかし、カズンズの考え方はその後、読者や批評家によって単純化され、結局『前向きな姿勢を持つように』という格言になってしまいました。『笑いと治癒力』と、それに続く彼の著書や記事や発言をきちんと読めば、彼が『気分よく過ごせば病気は治る』という魔法のようなアプローチを語ろうとしていたのではないことがわかります。しかし、薄められたこの概念のほうが、心と体のつながりは本当に重要であるという、人が直観的に感じていることを形にし、応用する力になりやすかったのです。
「前向きな姿勢」を勧める人には、それなりの立派な動機があります。しかし、この言葉の裏には深刻なマイナス面もあるのです。
『元気を出して、楽観的になって、気分をよくして、頑張って。そうしたら、よくなるよ』。
ガン患者、特に診断されて数週間か数ヶ月しか経っていない患者は怯えていたり、感覚を失っていたり、落ち込んでいたり、怒っていたりすることが多いものです。心の痛み、そしてときには身体的な痛みが伴います。この時期の患者に『前向きに』などと促しても、それは「苦痛に仮面をかぶせなさい」と言っているようなものです。
残念ながら、苦しみからの逃避は、却って絶望を長引かせ、悪化させることさえあります。もちろん、患者ができるだけ楽で苦痛の少ない状態を保つべきではありますが、一番よいのは、患者が今ある不快感、恐怖、そして悲しみを、可能なときに認識することです。こうした感覚や感情は、望めば消えるものではなく、その人が何を求めているかを示す貴重な【サイン】なのです。
私たちは愛する者に、たとえ、そのつもりはなくとも、本当の感情を隠しなさいなどと言ってはいけないのです。私たちは愛する者が悲しみたいなら悲しませてあげるべきです。悲しみは悲しみとして隠さずに、そのまま希望が持てるよう、患者を励ましてあげられるはずです。
残念なことに、一番はじめに、患者に「前向きな姿勢」でなどとのたまうのは、たいていの場合、医者です。患者の目には恐れ多い力をもつ医者がそう言えば、そのアドバイスは命令と聞こえることもあるでしょう。しかし、医者はめったに心理学の実習などしておらず、今の医療体制では一人ひとりの患者に対して時間を取る余裕もありません。そして、医者に言われた「前向きな姿勢」でという言葉は、その後も患者の心理的な支えとして居座り続けます。こうして患者は、悲しむべきときに「正しい」態度でいなくてはと感じるが、それは善意の医者が背負わせた重荷なのです。
タイプCの患者にとって、これは行動パターンを強化することに他なりません。「前向きな姿勢」でというメッセージは、ネガティブな感情を抑えることを合理化する根拠ともなりうるのです。
タイプCの人たちの心はすでに「〜すべき」という言葉で脅されていることを忘れてはなりません。子どもの頃から、すべての状況において、どのように感じるべきか、そしてどのように行動すべきか、言われ続けてきたのですから。。。。
ガン患者の家族や友人が愛する者にできる最良のことは、本人が自分自身になれる自由を与えることでしょう。たとえ、患者が悲しくても、腹を立てていても、嬉しくても、有頂天になっていても、虚ろでも、混乱していても、いらだっていても、怯えていても、あるいはただ落ち込んでいるだけであっても。
そうしたサポートを得たとき、自然な悲しみのプロセスは、自然と解消することでしょう。そして、最高の環境で、前に立ちはだかる闘いに向けて、エネルギーと楽観思考をかきたてることができるのです。
「人に、再発の心配をすると本当にそうなるかもしれないよと注意されたり、前向きに考えなさいと強く言われたりしても、それらは何の助けにもならなかった」と、あるガン患者は言います。「恐れの深みにどっぷりと浸かって、真剣に真っ向から向き合うことが私には必要だった。そうして初めて、本物の前向きな姿勢が生まれたのです」。
何かをお願いすれば、それがどれほど空想的なことであっても願いがかなうと信じる時期が、幼い頃にはあるものです。恐ろしい病気になった大人が、「正しく」生きれば、なんとか病気と死という悪を取り消すことができるに違いないと信じるとき、それは子ども時代の「魔法の考え方」をしているのです。食生活や態度、性格を変えれば、必ず、そしてすぐに腫瘍を消せるに違いないと思っているガン患者がいます。また患者にこうした魔法の考え方をするように勧める家族や周囲の人たちもいます。
しかし、こうした希望が「空想どおりになれ!」という要求に変わると、悲劇は起きるのです。ニューエイジの思想家たちのうち、ガンは心霊的な要因によってのみ生じ、であるから必ず克服できると信じている人は、こうした「死など存在しないことにしよう」という見方をします。彼らは、イメージ療法、瞑想、祈り、または信仰療法を「純粋に」実施すれば、きっと病気を克服し、死を避けられると信じています。これこそ、ニューエイジの服をまとった《男らしさの美学》という神話といえます。
シルベスター・スタローンやクリント・イーストウッドやアーノルド・シュワルツェネッガーなどが主演するような映画に象徴される男らしさの美学も、奇妙な関わり方ではありますが、患者の自責の原因となっています。この問題は、ガンを悪い敵と見るときから始まっているようです。
私たちは文化的に、「勝ち目のない闘いに挑み、一人で敵を征服する、個人の力をテーマにしたもの」に反応するように条件付けられています。これが無数にある大衆娯楽映画のテーマでもありますね。ガン患者はこうしたイメージに引き付けられ、絶望状態のときにはそこに引き込まれてしまいます。シルベスター・スタローンやクリント・イーストウッドやアーノルド・シュワルツェネッガーが、決意を胸に、鉄の意志をもって、歯を食いしばりながら敵を打ち負かす物語は感動的です。しかし、その感動の背後には、自分の絶対的な力についての誤った信念があり、それが期待通りにいかないと悟った患者はひどく落ち込むことになります。
ファイティング・スピリットは患者の回復を促せますが、《男らしさの美学》は真のファイティング・スピリットではありません。自信のあるファイターには十分な自尊心があり、不敗のイメージを作り上げる必要もありません。自分の弱点を受け入れており、強さと権力と成功だけをもって自分や他人を判断しません。本当のファイターは生きる意志を持っていますが、意志の力だけが唯一の重要な力ではないことも知っています。自己意識、思いやり、そして自分の要求を認める勇気こそ健康的な価値です。これは、《男らしさの美学》とは対極をなすものといえます。
《男らしさの美学》のマイナス面は、「同じように一生懸命、立派に闘ったのに負けた」人が自分の「失敗」を責められる可能性があるということです。「勇気」と「ヒロイズム」は役に立たない言葉ではありませんが、これをガン患者に応用すると有害な結果を招くことがあるといえます。
最も勇気ある行為は「英雄になること」ではなく、「自分自身になること」だと思います。自分自身になることは、医者・家族、そして友人が自立を奨励する環境の中で育まれるものです。患者は「動じてはならない」とか、「男らしく耐えなくてはならない」とか、あるいはいつも「最高の威厳をもって振舞わなくてはならない」などと感じる必要はないのです。
私たちは、誰かがファイティング・スピリットをもってガンに打ち克ったことを振り返り、その偉大な努力を英雄的だと讃えることもあるでしょう。しかし、ガンに倒れた多くの患者も、運良く生き残った人と同じくらい、英雄的で勇敢だったのです!
健康な免疫系が弱いガン細胞を破壊する様子を思い浮かべるイメージ療法は、従来のガン治療と並行して行えば、有益な手法となりえます。これが免疫機能の一部に好影響を与えるのは明白です。しかし、ガンそのものを覆す力があるかどうかについては疑問が残ります。
イメージ療法には多くの信頼できる指導者もいますが、効果を誇張する治療家もいます。こうした治療家たちは、「………どのような場合でも、病気が消える様子を頭に思い描くことによって、パッと治すことができるはずだ」と考えています。この「パッと」というところが、紛れもない魔法の考えと言えるでしょう。霊的要因が回復に役立つことはあり得ますし、軽んじられるべきではないのかもしれませんが、しかし、心理的要因、社会的要因、そして生物学的要因も忘れてはならないのです。

 

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